匂いを嗅ぐ
わたくしにとって、長い時間が過ぎたあとです。
「君のアソコは、熟れた果実の匂いがするね。
熟しきって、腐る一歩手前の白桃だな」
誉められたのか、けなされたのかもわかりませんでしたけれど、女のそこをアソコと呼ぶのだということを、わたくしはこのとき初めて知りました。
シーツを濡らすほどの蜜液を垂らせながら、冷静に観察するあの方の視線に耐えました。
ええ、もちろん、そのとおりですわ。
見られることよりも、嗅がれることのほうが数倍恥ずかしいのです。
あなたも女性なら、おわかりでしょう?
そうなんです。
恥ずかしければ恥ずかしいほど、よけいに肢体は熱くなってきてしまうものなのです。
指で広げられて、鼻を突っ込まれて、そんなところの匂いを嗅がれたことがありますか?
「中のほうは、少し、酸っぱい香りがするね」
もう、わたくしはなにも返事をすることができずに、あの方にされるがままになっているだけです。
「奥のほうは新鮮なヨーグルトの匂いだが、クリちゃんは腐った生花の匂いがするよ」
わたくしの耳には、あの方の言葉が半分も届いていませんでした。
きつく目を閉じ、両手はシーツを固く握りしめて、唇を噛み締めておりました。
きっと、眉間に縦ジワがよってしまっているに違いないわ。
明日のエステでは、顔のマッサージをしてもらわなくちゃならないわね。
そんな場違いなことを思っていたのです。
膝を曲げて、両脚を大きく開いたわたくしの腰の下に、柔らかいクッションが充てられました。
もしかしたら、あの方が契約を破って、わたくしのなかに入ってきてくださるのではないかしら。
「ああっ、もう、お願いです」
「どうかしましたか?」
わたくしの願いが、あの方の心に届いていないはずがありません。
それなのに、何故なのでしょうか。
熱く、うずく女芯は、いつまで待っても、求めるものを与えられることはなかったのでございます。
源氏の君のように素敵なその方は、女を抱くことには興味を持っていないようでした。
ひたすら、匂いを嗅ぐ。
そのことだけを、求めていることがわかりました。